東京都台東区浅草の北東、隅田川の近くに、「待乳山聖天（まつちやましょうでん）」はひっそりと佇むお寺です。正式には「待乳山本龍院（まつちやまほんりゅういん）」といい、浅草寺の支院の一つとして古くから人々の篤い信仰を集めてまいりました。ご本尊は、十一面観音菩薩の化身とされる「大聖歓喜天（だいしょうかんぎてん）」で、「聖天さま」として親しまれています。

その創建は、今からおよそ1400年以上前、飛鳥時代の推古天皇の御世にさかのぼります。縁起によりますと、推古天皇3年（595年）9月20日に、この地の平坦な土地が突然、小高い山のように盛り上がり、そこに金色の龍が舞い降りて山を守護したと伝えられています。この「一夜の涌現」こそが、のちに「浅草寺」の山号「金龍山」の由来になったともいわれています。その6年後、地域を大干ばつが襲い、人々が飢えに苦しんでいた時、十一面観音菩薩が哀れみ、「大聖歓喜天」の姿となってこの「待乳山」にご降臨になり、人々の苦しみを救済されたそうです。これが「聖天さま」が鎮座された始まりといわれ、災いを払い、願いをかなえてくださる霊験あらたかな神様として信仰されてきました。

このお寺を訪れると、境内各所に「大根」と「巾着」の印が見られるのが大きな特徴です。この二つのシンボルは、「聖天さま」の広大なご利益を具体的に表しています。大根は、身体を丈夫にしてくださり、良縁を成就させて夫婦仲良く末永く一家の和合を御加護いただける功徳、そして心身を清浄にするおはたらきを象徴しています。一方の巾着は財宝、すなわち商売繁盛や財福の功徳を表しており、参拝者のあらゆる願いを叶えようとする「聖天さま」の深い慈悲の心を示しています。

また、「待乳山」は標高10mほどの小さな山ではありますが、江戸時代には隅田川に臨む東都随一の眺望の名所として知られ、歌川広重をはじめとする多くの文人墨客に愛され、詩歌や錦絵の題材となりました。現在でも、境内には広重の浮世絵に描かれた築地塀の一部が残されていて、往時の名所の面影を感じさせてくれます。

小高い山の上にある本堂へは、石段のほかに、ご高齢の方や足の不自由な方も安心して参拝できるよう、斜面を登るエレベーター代わりのモノレール「さくらレール」が設けられています。これは日本のお寺でも珍しい設備で、訪れる方への優しさが感じられますね。

「聖天さま」を供養する最高の祈祷法とされる「浴油祈祷（よくゆきとう）」が毎朝欠かさず厳修されていることも、このお寺の信仰の深さを表しています。さらに、年中行事の中でも特に有名なのが、毎年1月7日に行われる「大般若講・大根まつり」です。このお祭りの後には、お正月の間にご本尊にお供えされた大根を調理した「風呂吹き大根」が御神酒とともに参拝者に振る舞われます。「聖天さま」のお下がりをいただくことで、心身の健康や無病息災のご利益をいただけるとされ、多くの人で賑わいます。また、「待乳山聖天」は浅草名所七福神の一つにも数えられていて、『大聖歓喜天」の脇侍として凛とした木彫り像の「毘沙門天」がお祀りされています。

【有吉くんの正直さんぽ 待乳山聖天】浅草周辺 大根をお供えするお寺は？2021/1/9放送でも紹介