川崎市中原区に拠点を置く人形劇団ひとみ座は、1948年（昭和23年）に鎌倉アカデミアに集まった若者たちが演劇活動を始めたことがきっかけで誕生した、日本を代表する人形劇の専門劇団です。戦後の混乱が残る時代から、「豊かな人形劇の創造」をテーマに掲げ、活動をスタートさせました。当初は鎌倉で創立されましたが、1959年からは川崎市中原区井田に活動の拠点を移し、今日まで半世紀以上にわたり、全国各地に人形劇の魅力を届け続けています。舞台芸術を通して、子どもたちに夢と想像力を、大人たちには深い感動をもたらす文化活動を続けている、地域に根ざした劇団です。

人形劇団ひとみ座の最も有名なエピソードの一つは、1964年からNHKで放送された国民的人気番組「ひょっこりひょうたん島」に、人形操演などで深く関わったことです。そのほかにも「ネコジャラ市の11人」といった多くのテレビや映像作品を世に送り出し、日本の人形劇文化を牽引してきました。また、劇団は地元川崎との結びつきを非常に大切にしています。たとえば、地元のプロサッカーチームである川崎フロンターレのマスコットが登場する人形劇を制作したり、川崎市中原区と連携してごみの分別や歯磨きをテーマにした人形劇動画を作成するなど、人形劇を通じて地域の文化活動や啓発にも積極的に協力しています。さらに、市が推進する「読書のまち・かわさき」事業では、フロンターレの選手やコーチと劇団員が共演する人形劇を、市内の図書館や小学校で上演するなど、ユニークな取り組みを続けているところも大きな特徴です。

上演作品のラインナップの幅広さもひとみ座の魅力です。現在も各地で上演されている作品の中には、人気児童文学を題材にした「ふしぎ駄菓子屋銭天堂」や「はれときどきぶた」といった子どもたちに人気の演目があります。また、創立75周年記念公演として、笑いと涙のエンターテインメント作品「花田少年史」を上演するなど、常に新しい挑戦を続けています。子ども向け作品に加えて、シェイクスピアの「リア王」や安部公房の戯曲など、大人の鑑賞にも耐えうる本格的な舞台作品も数多く創作しており、幅広い年齢層に人形劇の奥深さを伝えています。

そのほかにも、人形劇団ひとみ座は、伝統的な人形芸能の研究と継承にも力を入れています。特に、女性が文楽の人形を遣う「乙女文楽」などの活動は、日本の伝統文化を現代に伝える貴重な試みとして注目されています。劇団の拠点である人形劇団ひとみ座スタジオでは、定期的な公演のほか「ひとみ座寄席」なども開催され、地域住民の文化交流の場としても親しまれています。また、国内の活動に留まらず、アメリカ、カナダ、中国など海外での公演活動も積極的に行っており、日本の人形劇の芸術性を世界に発信し続けている、まさに日本の人形劇界の牽引役と言えるでしょう。