イギリス北部、ダラム市の中心にある「ダラム城と大聖堂」は、1986年にユネスコの世界文化遺産に登録された、歴史と威厳に満ちた場所です。イングランド北東部のウィア川に囲まれた半島状の崖の上に、二つの壮麗な建物が並び立ち、その景観は息をのむほど美しいです。ここでは、かつて絶大な権力を持ったダラム司教公の居城と、ノーサンブリア地方の信仰の中心であった大聖堂が、歴史の重みを今に伝えています。

ダラム大聖堂は、1093年に着工されたイングランド国教会の聖堂で、7世紀の宣教師である聖カスバートと、「イングランド教会史」を著した尊者聖ベーダの聖遺物を安置するために建てられました。この大聖堂は、ヨーロッパでも屈指の精巧さを持つノルマン様式建築の最高傑作と言われています。特に、身廊の天井に見られる交差リブ・ヴォールトの構造は、従来の重厚なロマネスク様式から、後に花開くゴシック建築へと繋がる革新的な技術の転換点を示しており、その大胆な設計は多くの建築家を驚かせました。

一方のダラム城は、11世紀後半にノルマン朝のウィリアム1世の命令により、スコットランドとの国境警備のための要塞として建設が始まりました。この城は、国王から軍事権や行政権など国王に匹敵する権限を与えられた歴代のダラム司教公が住む宮殿となり、長きにわたり北イングランドの政治と精神を司る中心地でした。その役割は時代とともに変化し、1840年からは新設されたダラム大学の学生寮として利用されるようになりました。現在も、学生たちが日常生活を送る「生きたお城」として使われているのは、世界的に見てもとても珍しい特徴と言えます。

こうした深い歴史や独自の建築様式に加え、この地を有名にしたエピソードとして、世界的な人気を誇る映画シリーズ「ハリー・ポッター」のロケ地になったことが挙げられます。大聖堂の回廊やチャプター・ハウス（会議室）が、ホグワーツ魔法魔術学校の一部として登場し、映画のファンの方にも大変人気のスポットとなっています。また、大聖堂の北側入口には、中世に罪人が避難を求めたという魔除けの門環が残されており、長い歴史の中で、人々の信仰や生活と密接に関わってきた様子をうかがい知ることができます。

観光のハイライトとしては、大聖堂のシンボルとも言える中央塔に登ることをおすすめします。325段の階段を上ると、高さ66メートルの塔の頂上から、ダラムの街並みやウィア川の美しい自然を眺めることができます。ダラム城の見学は、学生の生活空間という性質上、主にガイドツアーでの案内になりますので、訪れる際は事前にツアーの情報を調べて予約をされることをおすすめします。大聖堂はミサやイベントが行われる時間帯には、見学が制限されたり、写真撮影が禁止されているエリアもありますので、教会としての尊厳を尊重し、静かに見学するよう心がけてください。特に内部の聖カスバートのお墓周辺などは撮影禁止の場所があります。