かつて地中海の覇権を巡ってローマ帝国と激しく争った古代都市の痕跡です。
広大な敷地に点在する遺跡群は、フェニキア人によって築かれた商業都市の栄華と、ローマによって再建された壮大な文明の足跡を今に伝えています。
その歴史的価値が認められ、1979年にユネスコの世界遺産に登録されました。
チュニスの北東約15km、地中海に面したビュルサの丘に広がるカルタゴは、紀元前9世紀にフェニキア人によって建設されました。
優れた航海術と商業力を持つフェニキア人は、この地を拠点に一大交易帝国を築き、紀元前6世紀には地中海の大部分を支配するまでになりました。
しかし、その繁栄は新興勢力であるローマとの摩擦を生み、紀元前3世紀から1世紀にかけて、歴史に名高いポエニ戦争を戦うことになります。
3度にわたる激戦の末、紀元前146年にカルタゴはローマによって徹底的に破壊され、滅亡しました。
カルタゴの戦略的な重要性を認識したローマ帝国は、紀元前44年にユリウス・カエサルによって古代都市の廃墟の上に新たな都市を再建しました。
この「第二のカルタゴ」は、ローマ帝国の属州アフリカの首都として再び繁栄し、ローマ、アレクサンドリアに次ぐ大都市へと発展したのです。
現在私たちが見ることができる遺跡のほとんどは、このローマ時代に築かれたものです。

サヘル地方に位置するエル・ジェムの円形闘技場は、紀元3世紀に建設された巨大な円形闘技場です。
チュニジアに点在する古代ローマ遺跡の中でも、その規模と保存状態の良さから、「アフリカのコロッセオ」とも呼ばれ、圧倒的な存在感を放っています。
紀元3世紀初頭に、当時のローマ属州アフリカの一部であったティスドルス（Thysdrus）の町に、時の執政官ゴルディアヌス1世によって建設されたと考えられています。この円形闘技場が築かれたのは、この地域がオリーブオイルの生産と交易で繁栄を極めていた時代。
ローマ帝国に莫大な富をもたらしたこの町の住民は、ローマ本国に負けない壮大な円形闘技場を建設することで、その繁栄ぶりを誇示しようとしたのです。

その規模は、ローマのコロッセオ、イタリア・カプアの円形闘技場に次いで世界で3番目、または4番目の大きさと言われており、かつては35,000人もの観客を収容することができたとされています。
楕円形の外周は148メートルにも及び、高さ約36メートルの壁が三層構造で築かれています。
この壮大なスケール感と、遠くからでも一目でわかるその巨大な姿は、訪れる人々を圧倒します。
驚くべき保存状態の良さも魅力のひとつで、特に、観客席を支えていたアーチや壁面のほとんどが原型を留めており、ローマのコロッセオでは見られないほど良好な状態で残されています。
また、闘技場の中心に広がるアリーナの下には、剣闘士や猛獣が待機していた地下通路がほぼ完全な形で保存されており、実際に地下に降りて見学することができます。
この地下通路を歩くと、かつてここで繰り広げられた熱狂的な闘いや、命を懸けた人々の息遣いが聞こえてくるような、歴史の深さを肌で感じることができます。

この円形闘技場は、その完璧なロケーションと保存状態の良さから、ハリウッド映画のロケ地としても有名です。
特に、ラッセル・クロウ主演の歴史大作『グラディエーター』のクライマックスシーンで、ローマのコロッセオの代わりとして使用されたことは、世界的に知られるきっかけとなりました。