西武新宿線鷺ノ宮駅の北口から、中杉通りを少し歩いた路地裏に、静かにたたずむ喫茶店が珈琲亭 郷です。まるで山あいの茶屋のような風情ある入口が目印のこのお店は、地元の方に長く愛されている憩いの空間です。開店は昭和51年（1976年）で、40年以上にわたりこの地でやすらぎのひとときを提供し続けています。店名にある「郷」の文字には深い思いが込められていて、内装に使われている木材は、お店とゆかりの深い白川郷の界隈から運ばれてきたものだそうです。白川郷の古民家のような格調高い雰囲気と、喫茶店らしいぬくもりが見事に調和しています。

お店の一歩足を踏み入れると、そこは和の趣にあふれた、どこか懐かしい昭和の世界です。内部のインテリアは和風で統一されていて、天井を見上げると花の形をした愛らしい照明が灯り、空間全体を温かい光で包み込んでいます。テーブル席も個性的で、内側がくぼんだ掘りごたつ風の造りになっていて、火は通っていませんが、あたかも囲炉裏を囲んでいるかのような味わいを感じられます。流れてくるのは軽快なジャズで、日中の時間帯には特に多く流れるそうで、この和の空間とジャズの意外な組み合わせが、珈琲亭 郷ならではの心地よい時間を作り出しています。また、出入口の脇には、先代の女性が手作りしたコースターや巾着などの可愛らしいグッズが並んでいて、このお店ならではの温かさ伝わってきます。現在は先代の娘さんご夫婦が交代でお店を切り盛りされていて、親から子へと受け継がれた、やさしい心づかいを感じられます。

豊富に揃うメニューの中でも、特に名物として知られているのがホカジャガセットです。ホクホクに蒸されたじゃがいもにバターと焼きマヨネーズが添えられ、サラダと珈琲がセットになったボリューム満点のメニューで、寒い季節にはたまらなく恋しくなる一品です。軽食としては、トースト類や焼きプレスサンドなどのパンメニューも充実していて、特にモーニングやランチの時間帯に、多くの方に親しまれています。また、純喫茶らしい甘味のメニューも見逃せません。昔ながらのいそべもちやおしるこ、ぞうにといったお餅系のメニューが揃っているのも特徴的で、和風の空間によく合う、ほっとする味わいです。ドリンクでは、フローズンタイプのメロンネクターが、その見た目の可愛らしさで人気を集めています。ポコポコとした独特のフォルムのグラスで出されることがあり、たっぷりのアイスが乗った爽やかな味わいは、喫茶店のノスタルジックな雰囲気をより一層引き立ててくれるでしょう。メニューは手書きのノートになっていて、訪れる曜日や時間帯によって提供されるメニューが異なることがありますので、その日の出会いを楽しみにするのも、このお店を訪れる醍醐味の一つになっています。