創業明治三十八年（1905年）の老舗和菓子店「亀澤堂」は佇んでいます。
日露戦争の勝利に沸く時代に、初代辰五郎が「最良の素材を使った、本当に美味しい和菓子をもっと身近に」という想いを胸にこの地に開業して以来、百二十年もの長きにわたり、地域の人々に愛され続けてきました。

和菓子は、単なる甘味に留まらない、日本の伝統と職人のこだわりが凝縮された逸品です。特に、その名を全国に知らしめる「どらやき」は、厳選された国産小麦粉、たっぷりの卵と蜂蜜を使用し、職人が一枚ずつ丁寧に手焼きするふっくらとした皮が特徴です。中には北海道産大粒小豆の特製小倉餡がぎっしりと詰まっており、口に入れた瞬間に広がる上品な甘さと、しっとりとした皮の絶妙なハーモニーは、まさに至福の味わいです。定番の小倉餡に加え、北アメリカ産ワイルド種ブルーベリーを使った風味豊かなブルーベリージャムを挟んだものや、季節限定の抹茶餡、れもん餡、新栗餡など、多様な味わいが楽しめるのも魅力の一つです。

そして、どらやきと並ぶ看板商品が「豆大福」です。一般的な赤えんどう豆ではなく、ふっくらとした白い大豆が用いられており、その柔らかな餅と上品な餡の組み合わせは、他ではなかなか味わえない亀澤堂ならではの個性です。添加物を極力使用せず、良質な素材にこだわり続ける姿勢は、創業者の精神を今に受け継ぐ四代目店主、帆刈武彦氏の「身体にやさしい和菓子作り」への揺るぎない信念を感じさせます。大正から昭和初期にかけては、神保町の本家から全国に十数軒もの暖簾分けした亀澤堂が存在したという歴史も、その確かな品質と人気を物語っています。