都営三田線の板橋区役所前駅から歩いてすぐ、中山道沿いに暖簾を掲げる「立ち喰いそば うどん えんば」さんは、地元の公的機関で働く人々をはじめ、多くの方の胃袋を満たしているお店です。比較的新しいお店ですが、その一杯には、立ち食いそばの概念を覆すほどの店主の熱い想いと深いこだわりが詰まっています。

店名「えんば」は古語で「とんぼ」を意味し、パートナーさんが考案したもの。
お店の内装は、女性のお客さまも気持ちよく利用できるようにと、清潔感のある色合いや作りにしているそうで、立ち食いスタイルながらも温かい雰囲気が伝わってきますね。

このお店の最大の特徴は、和食の料理人ならではの知恵と技術が注ぎ込まれた「つゆ」にあります。スピーディな提供を重視して茹で麺を使っているものの、そのつゆは、ひと口すすると、一般的にパンチが強いとされる立ち食いそばのつゆとは一線を画す、どこか上品で深みのある味わいなのです。飲み下した後に、旨味と香りがじんわりと広がる感覚は、高級な和食のつゆを思わせるほど丁寧な仕上がりです。このつゆの美味しさを支える「かえし」には、店主の信念が詰まっており、熊本産の卑弥呼しょうゆを含む3種類をブレンドして使っているというこだわりがあります。この「丁寧に整えられた一杯」は、まさに店主の長年の経験と技術の賜物と言えるでしょう。

もちろん、そばやうどんに欠かせない天ぷらやトッピングも豊富で、季節の移り変わりを感じられる旬の食材を使った天ぷらが店頭に並びます。定番のゲソ天そばは、アオリイカのゲソを使っており、柔らかさの中にコリコリとした食感が楽しめます。つゆの上にはカツオ粉がふりかけられているのも、えんばさんならではの工夫ですね。また、個性的なメニューとして、たっぷりのわさびを乗せた冷たいお蕎麦「なみだそば」は、わさびの刺激がアクセントになり、クセになる一杯として知られています。

さらに、斬新な組み合わせに驚かされるのが「きのこそばバター乗せ」です。たっぷりのきのこの旨味を和風のつゆがしっかりと受け止め、そこにバターの芳醇なコクが加わることで、旨味がぐっと広がる新感覚のメニューとして人気を集めています。暑い時期におすすめの「冷やしそば」は、秘伝の味付けのスープが冷やし中華とそばつゆの中間のような爽やかな味わいで、蕎麦の上にかかったかつお節の出汁粉の香りが食欲をそそります。ユニークな天ぷらとしては、季節によっておかひじきやヤングコーン、豚の角煮といった、他の立ち食いそば店ではなかなか見かけないものまでトッピングとして登場するのも、元和食の料理人である店主の遊び心と技術の表れかもしれません。青のり入りの天かすが特徴の「冷やしたぬきそば」も隠れた人気メニューで、のり塩味のポテトチップスのような風味で、つゆの底には氷が入っているなど、細部にまで工夫が凝らされています。また、ご飯ものには、一つずつラップに包まれた家庭的な味わいのおにぎり（梅など）があり、そばやうどんと一緒に楽しむことができます。