千葉県の房総半島、富津市と鋸南町の境にそびえる鋸山は、その名の通り、まるで巨大なノコギリの歯のようにギザギザとした山容が印象的な山です。標高は329.5メートルで、都心からも日帰りしやすい立地にありながら、歴史と自然が織りなすダイナミックな景観を楽しめるところとして、多くの人々に親しまれています。山全体が、かつて良質な石材房州石の産地として栄えた歴史を持っており、江戸時代から盛んに行われた採石によって削り出された岩肌こそが、現在の鋸山のユニークな景観を作り出しました。この石切り産業の歴史を辿る「車力道コース」といったハイキングコースも整備されており、登山を楽しみながら歴史的な遺産を見学することができます。

山の南側斜面一帯は、奈良時代に聖武天皇の勅詔を受けて行基菩薩が開いたと伝わる、関東最古の勅願所日本寺の境内となっています。約10万坪にもおよぶ広大な敷地は千葉県の名勝にも指定されており、その境内には、鋸山の観光スポットの代名詞とも言える地獄のぞきがあります。断崖絶壁の岩が空中に突き出すような形をしており、その先端に立てば、眼下に広がる景色はもちろん、スリル満点の体験に背筋が伸びるような感覚を味わえます。ここからは東京湾や三浦半島、条件が良ければ富士山まで見渡すことができ、その眺望はまさに一大パノラマです。

また、日本寺には日本の石仏としては最大級の薬師瑠璃光如来像が安置されています。通称「大仏」として親しまれているこの像は、高さ31.05メートルを誇り、岩壁に直接彫られた磨崖仏としては日本一の大きさです。人々を病から救う仏様として深く信仰されています。さらに、巨大な岩壁をくり抜いて造られた百尺観音像も必見です。交通安全や世界平和を願って建立された観音像の穏やかなお顔を仰ぎ見ると、心が洗われるようです。

そのほかにも、日本寺の境内には、1500体以上の石仏が並ぶ千五百羅漢道があり、長い参道を歩きながら一体一体異なる表情のお羅漢様を拝観することができます。全ての見どころをじっくりと巡るには、一日がかりとなるほど広大で起伏に富んでいます。山頂へのアクセスは、鋸山ロープウェーを利用すれば約4分で到着でき、体力に不安がある方でも手軽に絶景を楽しめますが、境内や登山道は階段が多く、未舗装の箇所もあるため、散策の際は歩きやすい靴（運動靴や登山靴）と動きやすい服装で出かけるようにご注意ください。特に夏場は、こまめな水分補給ができるよう飲み物を多めに準備することをおすすめします。鋸山は、歴史の重みを感じさせる石切り場跡と、海と空が広がる雄大な景色を同時に堪能できる、魅力あふれるスポットです。

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