東京都練馬区の石神井の地で、六百年以上の歴史を刻んできた真言宗智山派の古刹が、三宝寺（三寳寺）です。亀頂山を山号とし、古くから石神井不動尊という名でも親しまれています。創建は応永元年（1394年）にさかのぼり、当初は現在の石神井公園にある三宝寺池のそばに建てられました。この地を治めていた石神井城主、豊島氏の祈願寺として大切にされてきたお寺です。

文明9年（1477年）、太田道灌によって豊島氏が滅びた後、三宝寺は道灌の命により、石神井城の曲輪（くるわ）内だった現在の場所に移されました。江戸時代に入ると、三代将軍である徳川家光公が鷹狩りの際に立ち寄った場所と伝わり、幕府から朱印地を与えられ、大変な隆盛を誇りました。この歴史を物語るのが、山門の御成門で、家光公が休憩されたことにちなんでその名が付けられたといわれています。現在の御成門は文政10年（1827年）に再建されたもので、区の指定文化財にもなっていて、境内でもっとも古い建築物の一つとして風格を漂わせています。

また、三宝寺は、石神井公園と深い縁で結ばれています。天然記念物の沼沢植物群落が守られている園内の三宝寺池は、このお寺の名前が由来になっています。中世の城落城の際には、城主の娘とされる照姫が池に身を投げたという悲恋の「照姫伝説」が残されていて、池畔には姫を偲ぶ「姫塚」も伝えられています。この伝説をもとに、練馬区では毎年春に「照姫まつり」が開かれ、地域で大切にされている歴史です。

境内を歩くと、様々な時代を経てきた見どころに出会えます。なかでも目を引くのは、開創600年を記念して1996年（平成8年）に落慶した高さ約17メートルの根本大塔です。これは真言密教の教主である大日如来を象徴する多宝塔で、一層が四角、二層が丸という独特な構造が印象的です。さらに、同じく600年記念事業として建てられた高さ9メートルの平和大観音像は、平和への願いを込めた十一面観音像として、多くの方々の信仰を集めています。

本堂の東側には、旧勝海舟邸の門を移築したといわれる長屋門があり、幕末の志士ゆかりの門として、その重厚な佇まいを見せています。三宝寺は関東三十六不動霊場の第十一番札所であり、武蔵野三十三観音霊場の第三番札所、そして御府内八十八ヶ所霊場の第十六番札所も兼ねていて、巡礼の拠点として訪れる人も絶えません。拝観は日中の時間帯のみ無料でできますが、静かに歴史と信仰を感じる場所として、訪れる際は境内や隣接する三宝寺池周辺の自然と静寂を守る心遣いが大切になります。東京にいながら武蔵野の豊かな自然と歴史の深さを感じさせてくれる、貴重な場所です。