六義園染井門の目の前にひっそりと佇むのが、大正11年（1922年）に創業し、百余年の時を経てなお愛され続ける蕎麦の老舗、「小松庵総本家 駒込本店」です。単なる蕎麦屋という枠を超え、訪れる人々に洗練された「東京蕎麦」の文化と、心に残るおもてなしを提供するこの名店は、まさに都会の隠れ家と呼ぶにふさわしい場所と言えるでしょう。

小松庵総本家は、創業以来、江戸蕎麦の伝統を深く尊重しつつ、常にその可能性を追求し続けてきました。蕎麦を打つ際の「四角に延ばす」という伝統的な手法や、蕎麦の風味を際立たせる濃い目のつゆの味は、まさに江戸蕎麦の真髄を受け継いでいます。しかし、その一方で「東京蕎麦」という新たな概念を提唱し、現代の食文化やお客様のニーズに合わせたおもてなしを融合させています。これは、二八蕎麦から生粉打ち、さらには多様な食材との組み合わせに挑戦するなど、蕎麦の進化を恐れない同店の姿勢の表れです。蕎麦粉は、茨城県笠間市、長野県産、福井県大野市産の大野在来種など、その時期に最も良質なものを全国から厳選して仕入れており、蕎麦への並々ならぬこだわりが感じられます。手打ちの蕎麦は喉ごしが良く、噛むほどに蕎麦本来の豊かな香りが口いっぱいに広がります。特に冬場に提供される「太打ち蕎麦」を使用した鍋焼き蕎麦は、そのコシの強さと唯一無二の食感が多くの食通を唸らせています。