岡山県津山市の城東地区、かつての城下町の面影を残す美しい街並みの中に、地域の方々に長年愛されてきた場所の記憶を受け継ぐカフェがあります。それがコーヒースタンド福寿湯です。

このお店の建物は、明治30年（1897年）に開業した小さな銭湯「福寿湯」の跡地をリノベーションして生まれ変わりました。店名も、地域の人々の思い出に残る元の銭湯の名前をそのまま大切に残しています。廃業して廃墟となっていた建物を、単に新しいカフェとして利用するのではなく、「福寿湯の時を取り戻していくプロジェクト」として、過去の記憶を掘り起こしながら再生させていったエピソードがあります。

店内に入ると、かつてお風呂屋さんだったことを強く感じさせる、ノスタルジックな光景が広がります。浴槽の形や跡がそのまま残る空間は、なんとも不思議な魅力に満ちています。リノベーションの過程では、地域のおじいさんやおばあさんから当時の話を聞きながら、壁を剥がして建物の古い記憶を辿る、まるで発掘作業のような工程があったそうです。地域の人々が毎日足を運んでくださるような、街に根付いた交流の場として親しまれています。

この空間の中で、コーヒースタンド福寿湯の大きな特徴となっているのが、かつての銭湯の風呂釜があった場所で行われる自家焙煎です。珈琲への強い情熱が感じられる、こだわりのコーヒーメニューが充実しています。淹れたての美味しいコーヒーを、銭湯ならではのレトロでユニークな雰囲気の中で楽しむことができるのは、このお店ならではの魅力ですね。

コーヒーと一緒にぜひ味わっていただきたいのが、お店のオリジナルメニューのコイ焼きです。地元の名物である鯉をモチーフにした可愛らしい形で、餡子やカスタードから中身を選ぶことができます。このコイ焼きは、見た目の愛らしさだけでなく、どこか懐かしくほっとする味わいが、訪れる人を優しい気持ちにしてくれます。また、岡山県津山市は、日本の「珈琲」という漢字が生まれた土地としても知られており、この地域で珈琲文化を継承するお店の存在は、文化的な背景からも注目されています。

将来は、残されている浴槽の跡を足湯として利用できるようにしたいといった、地域の人々へのサービスを大切にした構想もあるそうです。古い建物を活かし、地域に新たな人の流れと交流を生み出す、心温まる場所です。津山駅からは少し離れた場所にありますが、お店のある城東地区は、江戸時代の古い町並みが保存されている重要伝統的建造物群保存地区として散策が楽しめます。また、津山駅からバスで向かうことのできる、桜の名所として知られる津山城（鶴山公園）からも程近い場所にありますので、観光の休憩に立ち寄るのもおすすめです。歴史を感じる街並みの中で、コーヒースタンド福寿湯の温かいコーヒーを味わいながら、津山の歴史と人々の温かさに触れる特別な時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。