奈良県の吉野郡吉野町、豊かな自然に抱かれた吉野川のほとりにたたずむ、短い営業時間ながら多くの人から愛されているラーメン屋さんです。

このラーメン河の歴史は、店主の方が元々お寿司屋さんを営んでいらしたことに始まります。お寿司屋さんをしながらも、ご自身でラーメン屋を開きたいという長年の夢を抱き、独学でスープの研究を重ねていたそうです。平成元年頃、吉野の山あいにひっそりとお店をオープンされて以来、その類まれな美味しさが評判となり、今では県内外から多くのお客さまが訪れる人気店になりました。営業時間がわずか2時間程度に限られていることと、一日の提供数が約50食と決まっているため、早朝から順番待ちの記帳をする列ができることも珍しくありません。開店を待つ間、吉野川の清らかな流れや、周囲の自然を眺めて過ごす静かな時間も、このお店を訪れる楽しみの一つになっています。また、80代になられた今もなお、きびきびとお仕事をこなす店主の温かい人柄が、訪れるお客さまを魅了しています。そのやさしい雰囲気に誘われ、遠方から毎週のように手伝いに駆けつける常連さんもいるという心温まるエピソードもあります。

お店の看板メニューは、透き通るようなスープが美しいラーメン、いわゆる塩ラーメンです。極限まで丁寧にアクや雑味を取り除いたというスープは、鶏ガラと魚介からとった出汁がベースになっていて、滋味深く、洗練された味わいを楽しめます。その穏やかな塩加減は、飲み干してしまうほどすっきりと優しい口当たりです。具材には、分厚く切られた煮豚、シャキシャキとした食感の白菜、そして極太のメンマがのせられ、シンプルなスープに豊かな旨味を加えています。さらに、細かく削られた柚子の皮が添えられていることで、味わいに爽やかなアクセントが加わり、最後までさっぱりといただけます。麺は、スープと相性の良い中細ストレート麺が使われています。

もう一つ、このお店でぜひ味わっていただきたい名物が、元寿司職人という店主の経歴が存分に活かされたまぐろ丼です。もちもちとした食感がたまらないマグロのぶつ切りが特製の漬けタレで和えられており、酢の効いたご飯との相性は抜群です。ラーメンの繊細な味わいと、このまぐろ丼のしっかりとした美味しさのバランスが絶妙で、セットで注文するお客さまが後を絶ちません。丼物はもう一種類あり、ごま油で香ばしく炒めたタレがしっかりと絡められたとり丼も人気です。こちらはしっかりとした味付けでボリュームもあるので、あっさりとした塩ラーメンと交互にいただくのも楽しい食べ方です。他にも、おにぎりや鉄火巻、新香巻、胡瓜巻といった巻物類が提供されていた時期もあり、元お寿司屋さんならではの多彩なメニュー展開も魅力の一つでした。吉野の山奥で、たった二時間ほどの営業時間にすべてをかける店主の心意気と、ここでしか味わえない珠玉の一杯、そしてまぐろ丼を求めて、今日も多くの方が足を運んでいます。ご夫婦で営業されていたり、常連さんが手伝うこともあるような、温かい雰囲気の中でいただく特別なラーメンと丼を、ぜひ一度体験してみてください。