渋谷駅から歩いてすぐの場所に、日本のスパゲティ文化を語るうえで欠かせない、歴史ある専門店がございます。壁の穴 渋谷本店は、昭和28年（1953年）に東京都田村町で創業し、その後、昭和39年（1964年）に渋谷に移転して以来、長くこの地で愛されてきました。創業当時の日本では、スパゲティはまだ一般的ではなく、「しつこいイタリアのうどん」などと思われていた時代だといいます。そのため、開店当初はなかなかお客様が増えず、苦労の連続だったそうです。しかし、そんな中でも「こんなにおいしい料理が世間に知られないはずがない」と励まし続けてくれたお客様の声に支えられ、創業者の方は商売を続けることができたのですね。こうした困難な時代を経て、スパゲティを日本人にとって身近なものにしたいという強い思いから、独自の工夫を重ねて生まれたのが、今や全国に広がる「和風スパゲティ」なのです。壁の穴は、まさにその和風スパゲティの元祖として、日本の食文化に大きな影響を与えてきたお店といえます。

このお店の最大の魅力は、メニューの多くが「お客様との合作」として誕生した、ユニークなエピソードを持っているところです。現在80種類以上あるメニューの中には、お客様の要望やアイデアをヒントに生まれたものがたくさん含まれています。その代表的なメニューが、今や国民食ともいえるたらこスパゲティです。昭和42年（1967年）ごろ、イタリアに住んだ経験を持つ音楽家のお客様がキャビアの缶詰を持ち込み、「これをスパゲティに乗せてみてほしい」と頼んだことが、このメニューが生まれるきっかけとなりました。キャビアを使ったスパゲティが好評を博したことから、もっと手軽に楽しめる食材はないかと考案されたのが「たらこ」だったのです。さらに、海苔茶漬けからヒントを得て、刻み海苔をかける工夫がなされ、一気に評判となりました。お客様との心の交流を何よりも大切にしてきたからこそ、このような革新的なメニューが誕生したのですね。

また、長年にわたり特に高い人気を誇る定番メニューに、若者のアイドルがございます。こちらは、鉄板の上でアツアツに炒めたスパゲティに、超大ぶりにカットしたベーコンやウインナー、きのこ類、ピーマンといった、ボリュームたっぷりの具材を豪快に加えた一品です。昔ながらのスタイルで調理されたこのメニューは、その名の通り、特に若い世代のお客様から熱烈に支持されています。この若者のアイドルの姉妹商品として誕生したのがよくばりマドンナです。こちらは、ベーコン、ソーセージ、小海老、玉ねぎ、ピーマン、しめじ、プチトマトの7種類の具材を彩り豊かに散りばめ、昔ながらのバター醤油風味で味付けした、見た目にも華やかなスパゲティです。さまざまな食材の美味しさを少しずつ楽しみたいという方に、ぴったりのお料理ですね。

さらに、和風スパゲティの元祖として、創業者の思い出から生まれた名物料理もございます。それがあさりスパゲティです。これは、創業者が子供の頃に食べた深川丼を思い出し、アサリのむき身、ニンニク、ショウガを使い、醤油味をベースに常連のお客様の意見を聞きながら味を整えて完成した、和の風味豊かな一皿です。また、懐かしい喫茶店の味を思わせる**壁の穴風ナポリタン**も、復刻を望む声が多く寄せられ、パスタ専門店ならではのノウハウが詰まった独自のレシピで改良されました。素材の味を活かした仕上がりは、他にはない特別な味わいをお楽しみいただけます。季節ごとに旬の食材を使った限定メニューも登場するなど、創業から半世紀以上経った今も、お客様の「美味しい」という笑顔のために、進化し続けているお店です。

【人生最高レストラン】#光石研 大御所俳優との思い出！衝撃の元祖たらこスパゲッティ『壁の穴』2023/6/3放送でも紹介