都電荒川線の宮ノ前駅から歩いてすぐの場所に、地元の人々に長年愛され続けている喫茶店「尾久珈琲亭」があります。創業は1985年頃で、40年近い歴史を持つ、地域を代表するお店です。お店の始まりは、コーヒーと陶器、そして「食べること」をこよなく愛していた先代のマスターが、会社勤めをやめて貯金の全てを注ぎ込んでオープンさせたことにあります。現在は、その情熱とこだわりを大切に引き継いだ二代目のマスター藤野智久さんがお店を切り盛りされています。黒塗りの重厚な扉と、店名が大きく書かれた木製の看板が目印の店内は、松材を基調とした落ち着いた雰囲気が訪れる人を迎えてくれます。

「尾久珈琲亭」の最大の魅力は、その空間全体に漂う洗練された美しさと、提供される器のこだわりです。店内には、アカマツの一枚板を贅沢に使ったテーブルや、座り心地を考慮して作られたオーダーメイドの椅子が並び、レトロな趣のある窓ガラスが店内を優しい光で包み込んでいます。特に、カウンターの背後の棚には、約100客にもなる世界の一流ブランドのカップ＆ソーサーがずらりと並び、まるで美術館のようです。こちらは、先代マスターが集められたもので、マイセンやロイヤル・クラウンダービー、ウェッジウッド、ロイヤルコペンハーゲン、ミントンなど、名だたる洋食器が宝石のように美しく輝いています。お客様が注文された飲み物は、その中から選ばれた特別なカップで提供されるため、いつ訪れても新たな発見と贅沢な気分を味わうことができます。心地よく流れるジャズの調べに耳を傾けながら、日常を忘れさせてくれる至福のひとときを過ごせる唯一無二の空間です。

こちらのお店でぜひ味わっていただきたいのが、看板メニューの「炭火煎珈琲」です。厳選された豆を炭火で丁寧に煎り上げ、卓越した技術で一杯ずつ抽出された珈琲は、深いコクと豊かな香りが特徴で、器の美しさがその風味をさらに引き立ててくれます。特におすすめのブレンドコーヒーは、高価なブルーマウンテンNo.1を絶妙なバランスで配合しており、バランスの取れた味わいを楽しめます。メニューには11種類ほどの珈琲が用意されていて、中にはナポレオンが愛したとされる炎のパフォーマンスが有名なカフェ ロワイヤルという、特別な一杯もあります。

珈琲のお供として人気のメニューも豊富にそろっています。長年多くの方に親しまれている手作りのチーズケーキは、珈琲の風味を邪魔しない、ほどよい甘さと濃厚さが自慢です。また、軽食として人気のホットサンドは、注文を受けてから焼き上げられるので、出来立てアツアツをいただけます。こちらは、ハム野菜、ベーコンチーズ、ツナの3種類から選ぶことができ、ベーコンチーズのホットサンドには、シャキシャキとしたレタスも挟まれていてボリューム感もたっぷりです。そして、お店のオリジナルの冷たいドリンクとして知られているのがアンブル・ドゥ・レーヌです。これは、厳選されたコーヒーを高度な技術で抽出したエキスに、エバミルクを丁寧に浮かべたもので、「琥珀の女王」や「珈琲のナポレオン」とも呼ばれるほど、特別な一杯として愛され続けています。